読むことを生きる

photographer:Yuki Nishida ー 「月白にて」第二夜から一週間後の月白にて、陽も長くなって少しく明るい夕方に居合わせたあるお客さんと、砂糖をつかわない甘味について話すなかで干し柿へと話題の至ったとき、彼女にとって、柿のなる木立や柿のかたちが、果…

古傷の疼く(二)

ー 「前に話していたのはたしか、火の仕業?」 窯からギャラリーに戻って打ち合わせのはじめに、今展示のタイトルについて杜胡さんが郷原さんにそう確かめたとき、それはとても良いタイトルだと思った。火がうつわをうつわたらしめる仕業について、窯の構造…

古傷の疼く(一)

photographer:Kuniaki Hiratsuka ー 山道のはじまりのうねりに沿って、茶色いかたまりがいくつもうちつらなっている。不法投棄されたようなそれらは、よく見れば木々——家の解体作業で出てきたいくつもの梁や板——で、なかには江戸時代の立派な梁も埋もれてい…

器用な人間

ー 元旦の翌日に月白へ行った。先月末にはじまった話す連載「月白にて」に来てくださったギャラリーのオーナーさんが見えているというので、仕事帰りに寄ったのだが、彼女はタッチの差で帰ってしまったという。和紅茶を注文して待っていたら、そのとき居合わ…

回復する人間

ー 元旦はいつも晴れる不思議に恵まれて、朝から四時間の散歩をしてきた。なるべく正月の空気にあてられないようさびしい道をばかりとおってゆくと時空のそこだけぽっかりとあいたような境に踏み入ることが何度かあった。正月はなにかと狂うのか、と風邪っぴ…

「月白にて」

Photographer:Kuniaki Hiratsuka — 年の瀬、初回の「月白にて」終いました。お越しいただいた皆さん、月さん、本当にありがとうございました。ここで仔細に振り返ることはしませんが、これより先へと多岐にわたって続いていきそうな道程に、いくつもの糸口を…

他に仕方もない

どうやら自分は、作業の中にいる時には鬱にならない。鬱になる時、それを感じる時、だいたい頭で何かを考えている。( 但し例外を除く) そのままどこまでも考えてしまうのだが、あまりいいことにはならない。それなら考えるのをやめたらいい、と考えるまでも…

健康の企て

Photographer : Kuniaki Hiratsuka — 月白には写真集がいくつかあって、いつでもひらいて見ることができる。中でも写真家・鬼海弘雄の作品が多く、僕は文庫本の写真集『世間のひと』ーやわらかく笑っているおばあちゃんの肖像が表紙の本ーが前から気になって…

作家薬籠中

Photographer : Keitaro Oguro ー 日課の掃除が続いている。朝の散歩から帰ってきたら、布団を畳んで押入れに仕舞い、物を端に寄せ、掃除機のスイッチを入れる、と自分も切り替わるのを感じながら、畳の目に沿って一枚一枚、我が家は六畳ゆえに六枚あること…

月白にて

Photographer : Kuniaki Hiratsuka ー 扉を開けるとカウンターにお客さんが居て、月さんが「今、冬が売れたよ。」とポチ袋にお金をつつんで渡してくれる。冬のプレゼントに選んでくれたそうだ。月白における微花の常設販売が始まってから、それはあいさつの…

落ち葉掃き

朝は散歩がいい。歩いているうちに今日一日が生成されてくる。これまでは寝床で考えていたがたいていうまくいかず、うまくいかないと鬱になって、ついに寝床から出られなくなることが多かった。だから先ずは無目的に散歩に出かける。と後は万事が転がりだす…

最後の人間

時折やってくる何にも興味が出ない誰とも会いたくない平穏ながら苦しい時期がようやく明けてきたとき、発見が相次ぐ。それらは次々と押し寄せてきては、互いに繋がってやまない。その渦中は苦しいだけの平穏だが、抜けるとここへ出る。今までもそうだった。…

とんど

「花屋であるところに火を見ることは稀だろう。どころか火気なら厳禁だろう。ところが、人と花とを結びつけるのは他でもない火だったと、火を以ってしてはじめて人は底から深く花と関係するのだと、とんどに燃える松やら竹やら、くさぐさの葉っぱを眺めて居…